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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)44号 判決

東京都千代田区丸の内2丁目2番3号

原告

三菱電機株式会社

代表者代表取締役

北岡隆

訴訟代理人弁理士

上田守

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

指定代理人

石川正幸

遠藤政朗

及川泰嘉

関口博

伊藤三男

主文

特許庁が、平成3年審判第2657号事件について、平成5年12月14日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨。

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和57年3月8日、名称を「ドライエッチング装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭57-37665号)が、平成2年12月11日に拒絶査定を受けたので、平成2年2月21日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成3年審判第2657号事件として審理したうえ、平成5年12月14日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成6年2月7日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

半導体ウエハが装着される下部電極としてのエッチングステージと、ベース板上に上記エッチングステージを覆うように配設されたチャンバー容器と、このチャンバー容器内に上記エッチングステージとの間に所定間隔をおいてこれと対向するように設けられ、上記チャンバー容器の容器壁に絶縁されて保持された上部電極とを備えたドライエッチング装置において、

上記エッチングステージ、上記チャンバー容器の容器壁および上記上部電極にそれぞれ別個の温度制御手段が設けられ、これらの温度制御手段によって上記エッチングステージの温度を室温以下の低温度値に設定するとともに、上記チャンバー容器壁および上記上部電極の温度をそれぞれ上記エッチングステージの温度より高い温度値に設定することを特徴としたドライエッチング装置。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願の日前の特許出願であって本願出願後に出願公開された特願昭56-151395号の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、図面を含め「先願明細書」という。)に記載された発明(以下「先願発明」という。)と実質的に同一であり、そして、本願発明をした者が先願発明をした者と同一であるとも、また、本願出願の時にその出願人が先願発明の出願人と同一であるとも認められないから、特許法29条の2の規定により特許を受けることはできないものであるとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

1  取消事由の概要

先願明細書の記載の認定、本願発明と先願発明との一致点及び各相違点の認定は認める。

審決は、相違点〈1〉につき、「単なる電気的絶縁手段の差異であって、その差異は当業者が適宜なし得る単なる設計変更程度のことに過ぎない」(審決書9頁3~5行)とし、相違点〈2〉につき、「チャンバー容器の容器壁および上部電極にそれぞれ設けられる温度制御手段を別個とするか、一体とするかは、当業者が適宜なし得る単なる設計的事項であり、それらは互いに同一発明の範囲内のことに過ぎない」(同10頁1~5行)とし、相違点〈3〉につき、「半導体ウエハの表面上に設けられたエッチングマスク用レジスト膜の劣化を防止するためにエッチングステージの温度を低温度値に設定する必要があることは、当業者の技術常識であり・・・この〈3〉の点は、当業者の技術常識に属する事項を明記したか否かの相違に過ぎない」(同10頁12行~11頁3行)と、いずれも誤って判断し、その結果、本願発明が先願発明と同一であるとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

2  相違点〈1〉の判断の誤りについての詳細

審決は、相違点〈1〉につき、「甲第4号証に記載されたもの(注、先願発明)において、チャンバー容器の容器壁の側壁内側全面にわたってポリエステル膜がはりつけられているのは、上部電極が容器壁に電気的導通状態にて保持されているがため、容器壁が上部電極即ち陽極として機能することがないようにするためであることは明白である。換言すれば、チャンバー容器の容器壁の側壁内側全面にわたってポリエステル膜をはりつけるのは、チャンバー容器が上部電極(陽極)として機能するのを防止するためであり、機能的には、チャンバー容器を上部電極から電気的に絶縁することと等価であるということができる。」(審決書8頁6~17行)としているが、誤りである。

昭和55年7月10日初版発行「半導体プラズマプロセス技術」(甲第7号証)には、石英反応管の外部に高周波電極を置いて、高周波を印加し、放電プラズマを発生させる外部電極方式のプラズマエッチング装置(同号証101~102頁及び図2.1.1(a)、(c))が記載されており、これに示されているように、高周波電極間に石英などの絶縁体が存在しても放電プラズマが発生することは、技術常識である。

これによれば、先願発明において、容器壁の側壁内側全面にわたってポリエステル膜をはりつけるのは、上部電極(陽極)として機能することを防止するためではなく、単に、チャンバー壁からの金属汚染を防止するためであること(甲第4号証2頁右下欄9~17行)は、明らかである。

これに対し、本願発明においては、上部電極(陽極)は、チャンバー容器の容器壁に絶縁されて保持されているので、上部電極(陽極)とチャンバー容器とは必然的に同電位になるということはありえず、プラズマを発生させるためにチャンバー容器を接地電位にしても、上部電極(陽極)の電位をエッチングプロセスが最適となるような任意の電位に設定することが可能となるのであって、先願発明に比し格別の技術的意義がある。

したがって、審決の「本願発明にあって、上部電極がチャンバー容器の容器壁に絶縁されて保持されていることについては、本願公告明細書をみても格別な意義は見出せない。」(審決書8頁2~5行)との判断は誤りであり、本願発明の上部電極がチャンバー容器の容器壁に絶縁されて保持されている構成と、先願発明の上部電極がその側壁内側全面にわたってポリエステル膜がはりつけられたチャンバー容器の容器壁に電気的導通状態にて保持されている構成との相違をもって、審決のように、「単なる電気的絶縁手段の差異であって、その差異は当業者が適宜なし得る単なる設計変更程度のことに過ぎない」(同9頁3~5行)ということはできず、この点において、本願発明と先願発明が実質的に同一ではないことは、明らかである。

第4  被告の主張の要点

1  原告の主張1について

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

2  同2について

先願発明においては、上部電極(陽極)がチャンバー容器壁に電気的導通状態にて保持されているがために、チャンバー容器壁は上部電極と同電位となり、このチャンバー容器と下部電極との電位差は、上部電極(陽極)と下部電極との電位差と等しくなる。したがって、チャンバー容器の容器壁の側壁内側全面にわたってポリエステル膜がはりつけられていなければ、上部電極(陽極)と下部電極との電位差と等しいチャンバー容器壁と下部電極との電位差に基づいても、チャンバー容器壁の側壁内側面と下部電極との間で放電が生じ、プラズマを生成することになり、本来上部電極(陽極)と下部電極との間にのみ生じる放電によって生成されるべきプラズマの分布、密度等に影響を与え、以て予め設定されているエッチングの条件を変動せしめ、エッチングの制御を複雑にすることになるので、先願発明では、チャンバー容器が上部電極(陽極)として機能することのないように、チャンバー容器壁の側壁内側全面にわたって絶縁体であるポリエステル膜がはりつけられているのである。

審決は、先願発明において、「上部電極が容器壁に電気的導通状態にて保持されている」(審決書8頁8行~10行)以上、両者が同電位にあることは、物理学的にみて自明のことであるから、このことを前提とした上で、「チャンバー容器の容器壁の側壁内側全面にわたってポリエステル膜をはりつけるのは、チャンバー容器が上部電極(陽極)として機能するのを防止するためであり、機能的には、チャンバー容器を上部電極から電気的に絶縁することと等価であるということができる。」(同8頁12~17行)と、あくまでも「機能的には」「電気的に絶縁することと等価である」と判断しているものである。

すなわち、「上部電極(陽極)-チャンバー容器-放電・プラズマ-下部電極」という、プラズマエッチングには好ましくない電気回路を生じさせることのないように、本願発明では「上部電極(陽極)-チャンバー容器」間の絶縁の構成を採用し、先願発明では「チャンバー容器の容器壁の側壁内側全面にわたってポリエステル膜をはりつける」構成を採用したものであるから、両構成は、「上部電極(陽極)-チャンバー容器-放電・プラズマ-下部電極」という、プラズマエッチングには好ましくない電気回路を生じさせないという点では同じであるということである。

したがって、いずれの構成を採用するかは、当業者であれば適宜選択し得る事項の範囲内のことであり、審決の相違点〈1〉についての判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  本願発明と先願発明とが、審決が相違点〈1〉として認定するとおり、「本願発明では、上部電極は、チャンバー容器の容器壁に絶縁されて保持されているのに対して、甲第4号証に記載されたもの(注、先願発明)では、上部電極は、その側壁内側全面にわたってポリエステル膜がはりつけられたチャンバー容器の容器壁に電気的導通状態にて保持されている点」(審決書7頁1~6行)において相違することは、当事者間に争いがない。

そして、昭和55年7月10日初版発行「半導体プラズマプロセス技術」(甲第7号証)には、石英反応管の外部に高周波電極を置いて、高周波を印加し、放電プラズマを発生させる外部電極方式のプラズマエッチング装置(同号証101~102頁及び図2.1.1(a)、(c))が記載されており、これに示されているように、高周波電極間に石英などの絶縁体が存在しても放電プラズマが発生することは、本願出願前、技術常識であると認められる。

これによれば、先願発明において、容器壁の側壁内側全面にわたってポリエステル膜をはりつけるのは、チャンバー容器が上部電極(陽極)として機能することを防止する目的のためということはできず、先願明細書(甲第4号証)に記載されているように、チャンバー壁からの金属汚染を防止するためである(同号証2頁右下欄9~17行)というべきである。

これに対し、本願発明においては、上部電極(陽極)は、チャンバー容器の容器壁に絶縁されて保持されているから、チャンバー容器が上部電極(陽極)として機能することを防止することができ、したがって、相違点〈1〉に係る両発明の構成は、機能的に等価ということはできず、実質的に同一ということもできない。

以上によれば、審決の、「チャンバー容器の容器壁の側壁内側全面にわたってポリエステル膜をはりつけるのは、チャンバー容器が上部電極(陽極)として機能するのを防止するためであり、機能的には、チャンバー容器を上部電極から電気的に絶縁することと等価である」(審決書8頁12~17行)との判断は誤りであるといわなければならない。

そして、この誤りが、本願発明と先願発明とが実質的に同一であるとした審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点につき判断するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。

2  よって、原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成3年審判第2657号

審決

東京都千代田区丸の内2丁目2番3号

請求人 三菱電機株式会社

東京都手代田区丸の内2丁目2番3号 三菱電機株式会社特許部

代理人弁理士 高田守

東京都千代田区丸の内2丁目2番3号 三菱電機株式会社

代理人弁理士 竹中岑生

昭和57年特許願第37665号「ドライエッチング装置」拒絶査定に対する審判事件(平成4年7月14日出願公告、特公平4-42821)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ⅰ. 手続の経緯及び本願発明の要旨

本願は、昭和57年3月8日の出願であって、その発明の要旨は、出願公告後である平成5年8月18日付けで提出された手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて(上記平成5年8月18日付けの手続補正は、誤記の訂正を目的とするものであると共に、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないから、出願公告をすべき旨の謄本の送達後の明細書又は図面の補正について規定している特許法第64条の要件を充足しているものである。)、その特許請求の範囲に記載されたとおりの、

「半導体ウエハが装着される下部電極としてのエッチングステージと、ベース板上に上記エッチングステージを覆うように配設されたチャンバー容器と、

このチャンバー容器内に上記エッチングステージとの間に所定間隔をおいてこれと対向するように設けられ、上記チャンバー容器の容器壁に絶縁されて保持された上部電極とを備えたドライエッチング装置において、

上記エッチングステージ、上記チャンバー容器の容器壁および上記上部電極にそれぞれ別個の温度制御手段が設けられ、これらの温度制御手段によって上記エッチングステージの温度を室温以下の低温度値に設定するとともに、上記チャンバー容器壁および上記上部電極の温度をそれぞれ上記エッチングステージの温度より高い温度値に設定することを特徴としたドライエッチング装置。」

にあるものと認められる。

Ⅱ. 甲第4号証について

特許異議申立人松下電器産業株式会社が甲第4号証として提出した、本願出願の日前の特許出願であって当該特許出願後に出願公開された特願昭56-151395号の願書に最初に添附した明細書、図面(特開昭58-53833号公報参照)には、特に第3図及びこれに関する説明個所に、

被エッチング物が載置される下部電極としての陰極と、この陰極を載置するベース板上にこの陰極を覆い、その側壁内側全面にわたってポリエステル膜がはりつけられた減圧容器と、この減圧容器内に上記陰極との間に所定間隔をおいてこれと対向するように設けられ、上記減圧容器の容器壁に電気的導通状態にて保持された陽極電極とを備えたプラズマエッチング装置において、

上記ベース板に水冷パイプを通し、上記陽極に加熱手段が設けられた構造のプラズマエッチング装置

が示されている。さらに、明細書第7頁末行~第8頁第3行には、「第3図に示した実施例では、対向電極(19)のみを加熱する場合を示したが、他のすべての接地電極例えば容器(26)を同時に加熱した場合も・・・・」と記載されている(なお、ここにいう「対向電極(19)」が「陽極」を指すことは明らかである。)。

Ⅲ. 本願発明と甲第4号証に記載されたものとの対比

本願発明と甲第4号証に記載されたものとを対比すると、

甲第4号証にいう「被エッチング物」、「プラズマエッチング」、「陰極」、「陽極」がそれぞれ本願発明にいう「半導体ウエハ」、「ドライエッチング」、「エッチングステージ」、「上部電極」に相当することは明らかであり、また、「陰極を載置するベース板に水冷パイプを通し」ていることは、間接的ながらも陰極に温度制御手段を設けて、この温度制御手段によって陰極の温度を低温度値に設定していることであるものと解され、さらに、「対向電極(19)」即ち「陽極」のみならず「容器(26)を同時に加熱する」ということは、容器壁及び陽極にそれぞれ温度制御手段が設けられ、容器壁及び陽極の温度を陰極の温度より高い温度値に設定することを意味するものと解される(なお、「容器」を加熱するとは、実際には「容器壁」を加熱するの意であることは自明である。)から、

結局両者は、

「半導体ウエハが装着される下部電極としてのエッチングステージと、ベース板上に上記エッチングステージを覆うように配設されたチャンバー容器と、このチャンバー容器内に上記エッチングステージとの間に所定間隔をおいてこれと対向するように設けられた上部電極とを備えたドライエッチング装置において、

上記エッチングステージ、上記チャンバー容器の容器壁および上記上部電極にそれぞれ温度制御手段が設けられ、これらの温度制御手段によって上記エッチングステージの温度を低温度値に設定するとともに、上記チャンバー容器壁および上記上部電極の温度をそれぞれ上記エッチングステージの温度より高い温度値に設定することを特徴としたドライエッチング装置」

である点で一致しており、

〈1〉本願発明では、上部電極は、チャンバー容器の容器壁に絶縁されて保持されているのに対して、甲第4号証に記載されたものでは、上部電極は、その側壁内側全面にわたってポリエステル膜がはりつけられたチャンバー容器の容器壁に電気的導通状態にて保持されている点、

〈2〉本願発明では、チャンバー容器の容器壁および上部電極にそれぞれ別個の温度制御手段が設けられているのに対して、甲第4号証に記載されたものでは、チャンバー容器の容器壁および上部電極にそれぞれ設けられる温度制御手段が別個ではない点、

及び〈3〉本願発明では、エッチングステージの温度を室温以下の低温度値に設定するのに対して、甲第4号証には、室温以下ということが明記されていない点、

において一応相違している。

Ⅳ. 一応相違するとした点についての判断

〈1〉について

本願発明にあって、上部電極がチャンバー容器の容器壁に絶縁されて保持されていることについては、本願公告明細書をみても格別な意義は見出せない。

そして、甲第4号証に記載されたものにおいて、チャンバー容器の容器壁の側壁内側全面にわたってポリエステル膜がはりつけられているのは、上部電極が容器壁に電気的導通状態にて保持されているがため、容器壁が上部電極即ち陽極として機能することがないようにするためであることは明白である。換言すれば、チャンバー容器の容器壁の側壁内側全面にわたってポリエステル膜をはりつけるのは、チャンバー容器が上部電極(陽極)として機能するのを防止するためであり、機能的には、チャンバー容器を上部電極から電気的に絶縁することと等価であるということができる。

してみると、チャンバー容器と上部電極との電気的絶縁を、本願発明のように、上部電極をチャンバー容器の容器壁に絶縁されて保持されているようにして行うか(絶縁手段とすれば極く普通のことである。)、甲第4号証に記載されたもののようにしてして行うかの相違は、単なる電気的絶縁手段の差異であって、その差異は当業者が適宜なし得る単なる設計変更程度のことに過ぎない。

〈2〉について

チャンバー容器壁および上部電極の温度をそれぞれエッチングステージの温度より高い温度値に設定するのは、本願発明においてであれ、甲第4号証に記載されたものにおいてであれ、ガスとプラズマによって半導体ウエハをエッチングする時に生成されるエッチング反応生成物がチャンバー容器の内壁面上および上部電極の表面上に付着しないようにするためである。すなわち、本願発明では、チャンバー容器壁および上記上部電極の温度をそれぞれ上記エッチングステージの温度より高い温度値に設定することに意義があるのであって、チャンバー容器の容器壁および上部電極に温度制御手段をそれぞれ別個に設けることには、格別の意義が無い。したがって、チャンバー容器の容器壁および上部電極にそれぞれ設けられる温度制御手段を別個とするか、一体とするかは、当業者が適宜なし得る単なる設計的事項であり、それらは互いに同一発明の範囲内のことに過ぎない。

〈3〉について

甲第4号証には、エッチングステージの温度を室温以下に設定するということが明記されてはいないが、陰極即ちエッチングステージを載置するベース板に水冷パイプを通していることからみて、エッチングステージの温度が室温以下に設定されていることは、推認するに難くない。他方、半導体ウエハの表面上に設けられたエッチングマスク用レジスト膜の劣化を防止するためにエッチングステージの温度を低温度値に設定する必要があることは、当業者の技術常識であり、現に本願公告明細書にも、そのためにエッチングステージを室温以下になるように冷却するということが従来例として明記されている(本願公告公報第3欄第13~20行)。

してみると、この〈3〉の点は、当業者の技術常識に属する事項を明記したか否かの相違に過ぎない。

Ⅴ. 結論

以上のとおりであるから、結局本願発明は、本願出願の日前の特許出願であって当該特許出願後に出願公開された特願昭56-151395号の願書に最初に添附した明細書、図面(甲第4号証)に記載されたものと実質的に同一である。そして、本願発明をした者がこの特願昭56-151395号に係る発明をした者と同一であるとも、また、本願出願の時にその出願人が上記特許願昭56-151395号の出願人と同一であるとも認められない。

したがって、本願発明については、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年12月14日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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